NHK大河ドラマ『おんな城主直虎』第5回目では、亀之丞が井伊谷に戻ってくる場面が描かれている。そしてその前には井伊家の天敵とも言える小野政直が病死する。死を目前にした政直に次郎法師は会いに行き、過去の出来事に対する真相を聞きに行く。果たしてそこで政直が答えた内容は真実だったのか否か。
まずドラマ内では佐名という、井伊直平(次郎法師の曽祖父)の一人娘が今川家に人質に取られていると描かれている。これに関してはこちらの巻で記した通り史実通りとなっている。今回は佐名がなぜ今川家の人質に取られたのか、ということがひとつテーマとなっており、その真相を次郎法師が小野政直に聞きに行くという場面が描かれている。
ドラマで小野政直は、今川氏の怒りを買った井伊家が取り潰しに合わないように、井伊直平の一人娘佐名を人質として送ったと語っている。それで井伊家を守れるのであれば安いものだ、と。政直が話すとどれも偽りのようにも聞こえるが、これに関しては史実通りだ。
永正9年(1512年)、尾張斯波氏と手を結んだ井伊直平は今川氏に反旗を翻した。北条家と共に今川家を挟み撃ちにしようとしたのである。そして遠江の三岳城で篭城した。この戦いは1年半ほど続くのだが、最後は朝比奈泰以(泰以:やすもちは朝比奈泰能:やすよしの叔父で後見人)の猛攻を受けて落城してしまう。その後三岳城は奥平貞昌に城番が任せられるが、最終的に井伊家が改めて今川氏に降ることで三岳城は井伊家に返還される。
この時の和睦条件が、井伊直平の一人娘を人質として今川家に送ることと、公式な資料は残されてはいないのだが、小野氏が井伊直平の家老になるということだった。つまり小野氏は最初から、今川から井伊に送られたスパイだったのだ。ドラマでは佐名を人質として送るという提案をしたのは政直だったと描かれているが、これに関しては史料が残されていないため、限りなく真実に違いフィクションと言えるのではないだろうか。
ドラマでは政直が佐名を人質にすることを提案したことになっており、そのために井伊家と小野家の仲が険悪になっているように描かれている。このあたりの出来事がきっかけになったことは間違いないだろうが、しかし本格的に両家の仲が険悪になっていったのは、井伊家の家督問題が生じた際に政直が讒言により井伊家の者を次々と謀殺したからだろう。
さて、この回の最後で帰還した亀之丞は「俺はおとわと一緒になるつもりじゃ」と語っている。だがこれは史実とは異なるフィクションだ。史実では、亀之丞は井伊谷に帰還した際にはすでに妻も子どももいた。そのためこのタイミングで亀之丞と次郎法師が結婚することはできない。
そして次郎法師自身、史実では亀之丞が帰還する前から妻と子どもがいることを耳にしており、それが出家する最大の原因だったとされている。井伊直虎の生年は未だ謎に包まれているため、このあたりは作り手が自由に解釈しフィクションを加えて行ったのだろう。
第5回目からようやく柴咲コウさんや三浦春馬さんが登場し、ドラマの視聴率も好調だったようだ。ここからドラマは一気に展開し始めるのだろうが、直虎の史料は極端に少ないため、今後どのようなフィクションで小説的に視聴者を楽しませてくれるのか、注目のしどころと言える。
- 井伊家の天敵である小野政直が死ぬ直前に語ったことは真実?嘘?
- 井伊直平の一人娘佐名はなぜ今川家の人質とされたのか?!
- 井伊谷帰還時、亀之丞はもう次郎法師と結婚できない身だった?!