竹中半兵衛と牛に関する逸話は別の巻にてすでに紹介した。今回は半兵衛の馬にまつわる名言をご紹介したい。竹中半兵衛は僅か16人の手勢で稲葉山城を陥落させて以来、その名は日本全国に知れ渡っていた。まさに日の本一の知将であり、竹中半兵衛を幕下に加えたいと考える大名は一人や二人ではなかった。
それだけの名軍師であるにもかかわらず、半兵衛はいつも貧相な馬に乗って戦場に赴いていた。竹中半兵衛ほどの武将であれば、名のある名馬に乗っていても違和感はない。周りももっと良い馬に乗ってはどうかと話していたようだ。それでも半兵衛は、逆に身分にそぐわない駄馬に跨り続けた。それは何故なのか?!
竹中半兵衛の頭の中は常に戦場にあった。何を取っても戦場に立っていることを想定し物事を考えている。馬にしてもそうだった。もし名のあるような名馬に乗ってしまっては、その馬を失いたくないあまりに勝機を失ってしまうこともある。半兵衛が最も嫌ったのがそれだった。
しかし乗っているのが駄馬であれば、勝機となればすぐにでも馬を捨てて戦場を駆け回ることができる。仮にその馬に槍を刺されても、逃げ出されてしまっても、駄馬などいくらでも手に入る。そう思えるからこそ勝機を握り損なうことなく、好敵に対し瞬時に槍刀を向けていくことができる。
だがもし名馬に乗っていたらどうだろうか。もし場所を考えず馬を乗り捨てたら、従者は馬に追いつけるだろうか?馬を敵に盗られないだろうか?などと余計なことを考えてしまい、好機で瞬時の判断が鈍ってしまう。
大大名ならいくらでも名馬は手に入る。戦場で名馬を失ってしまっても、また次の名馬に乗ることができる。だが城代や、その家臣という程度では名馬などそうそう手に入れることはできない。そのため戦場で名馬に乗ることは戦う上で足手まといになると半兵衛は語っている。
この逸話は江戸時代に書かれた『常山記談(じょうざんきだん)』に収録されているのだが、半兵衛は10両持って馬を買いに行ったなら、5両の馬を買うように勧めている。その理由は戦場で馬を失ったら、残りの5両を使ってまた馬を買えるからだ。このように考えていれば、戦場で馬を理由に勝機を失うこともなくなる。さらに半兵衛はこのことは馬だけではなく、他のことにも当てはまると言葉を締めている。
竹中半兵衛は牛に乗って考えたり、身分にそぐわない駄馬に乗ったり、身形は普通であっても行動に関してはやや傾(かぶ)いていたようだ。だが人とは違う行動、物の見方を普段からしていたからこそ、半兵衛は時に奇想天外な戦術によって味方を勝利に導くことができたのかもしれない。
- 竹中半兵衛の馬にまつわる名言は、馬の話だけにあらず!?
- 竹中半兵衛は日の本一の軍師でありながら、駄馬に乗り続けた!?
- 竹中半兵衛の頭の中は、常に戦場にあった!