「小野政次」と一致するもの

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2017年NHK大河ドラマの主人公・井伊直虎、その井伊家の天敵とも呼べる存在が小野和泉守政直(又の名を道高)だ。大河ドラマでもヒールとして登場する。ではなぜ小野政直は井伊家にとって天敵となっていったのだろうか。


そもそも小野家が井伊家にやって来たのは、直虎の曽祖父である井伊直平の代でのことだった。小野政直は21代目となるわけだが、19代目の小野政房の子が遠江の小野村から招かれ、井伊谷の小野村にやって来たのが始まりだ。それ以来小野家は井伊家の家老職を世襲していくことになった。

直平が直々に招いた事実を踏まえれば、当初は決して小野家は井伊家の天敵ではなかった、あくまでも史料的には。だが事実はそうではなく、井伊直平が今川家と和睦する条件として、小野氏が世襲家老として井伊家に入ることだったようだ。

小野政直は、同じく井伊家家老である井伊直満(亀之丞こと直親の父親)と非常に仲が悪かったようだ。家内ではライバル関係にあり、とにかく井伊直満に遅れを取ることが小野政直には許せなかったと伝えられている。そのため男の子に恵まれなかった井伊宗家に、直政同様に井伊家の家老である井伊直満の子、亀之丞が婿入りすることが許せなかったようだ。

自らの息子を井伊宗家に婿入りさせ、井伊家を思いのままに操り、今川義元に媚びを売ることでさらに取り立ててもらうことに小野政直は執念を燃やしていた。だが結果的には井伊直満の子、亀之丞が井伊宗家に婿入りすることになった。そこで政直が思いついたのは、讒言により家老職のライバル井伊直満(亀之丞の父)を失脚させることだった。

小野政直は、井伊直満に謀反の疑いありと今川義元に讒言した。そしてそれを信じた義元は井伊直満を呼び出し申し開きをさせる振りを装い、謀殺することを命じた。この謀殺に関しては大河ドラマの第一回目で描かれており、父親が謀殺されたことにより亀之丞の身にも危険が及ぶことを危惧した井伊家の姿が描かれている。

小野政直を含めた小野氏は、今川家から送られた間者(スパイ)だった。井伊家は長年に渡り今川家に苦しめられたわけだが、小野氏というスパイがいることによって、井伊家の情報が今川家に筒抜けになっていたのだった。もちろんそれに気付かない井伊家でもなかったため、小野政直は井伊家に於いてどんどん孤立していき、同じ家老職の井伊直満とも犬猿の仲となり、最終的には次々と井伊家の人間を謀殺していく。

ちなみに井伊家にとっての癌は小野政直だけではなく、その息子・小野政次(又の名を小野但馬守道好)も同様だった。大河ドラマでは高橋一生さんが演じ、幼名を鶴丸と言う。小野政次に関してはまた別の記事にて詳しく書いていこうと思うが、大河ドラマ『おんな城主直虎』の第一回目で描かれた幼馴染3人、とわ・亀之丞・鶴丸には、それぞれがそれぞれに対し残酷な運命を背負っていくことになる。

とにかく小野政直という人物は井伊家の家老でありながらも今川家の間者であり、井伊家を乗っ取ることに執念を燃やした人物だった。ちなみに小野政直が謀殺したのは井伊直満ひとりではなく、その弟である井伊直義も同時に殺害している。天文13年12月23日(1544年)の出来事だった。
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2017年大河ドラマの主人公は戦国時代の女城主、井伊直虎。演じるのは柴咲コウさん。第一回目『井伊谷の少女』では幼い日の井伊直虎・とわ、井伊直親・亀之丞、小野政次(またの名を道好)・鶴丸が十前後という年齢で登場する。3人とも幼馴染という仲であり、共に遊んだり、共に学んだりするシーンが描かれている。だがこの3人にはこの後、残酷な運命が待ち受けている


おとわの両親は井伊直盛と千賀(ちか)だが、この時の井伊家には嫡男が誕生しておらず、子はとわだけだった。ちなみに母は千賀、直虎の幼名はドラマではとわと設定されているが、本当の名前は史実には残されていないため、これはあくまでもドラマ内だけでの設定となる。ただ千賀の晩年の名前である祐椿尼(ゆうちんに)は史実の名前となり、千賀は今川家の家臣・新野親矩(にいのちかのり)の妹となる。

劇中でとわと父直盛が遠乗りに出かけるシーンがあるのだが、そこで直盛は「おとわが継ぐか?わしの跡を」と語り、とわも「われもずっとそのつもりなのですが」と答える場面がある。これは今後のドラマ展開の伏線とも言えるやり取りであり、とても重要なシーンだ。

とわは、ドラマでは男勝りに育てられている設定だが実際にそうだったのかはもちろんわからない。何しろ戦国時代の女性の史料というのは、よほど力のある人物でない限り残されてはいない。井伊直虎に関してもそうで、女城主になったからとは言え、直虎の詳細がわかる史料はほとんど残されていない。そのため大河ドラマの内容も史実を描いたシーンは少なく、あくまでも多くのフィクションを加えた小説のドラマ化ということになる。ちなみに井伊家に伝わる正式な家系図に於いても女であるが故に直虎の名は省かれている。

体が弱いという設定になっている亀之丞は笛の名手であるわけだが、これは史実通りだ。歴史上の亀之丞、後の井伊直親も笛の名手として知られている。ただし体が弱かったという史実は残されてはいないため、この設定はフィクションなのかもしれない。

第一回目でとわと亀之丞は許嫁(いいなづけ)となる。これはもちろん史実通りだ。史実でも十前後の歳の頃に幼き日の井伊直虎と亀之丞は婚約している。だが亀之丞の父親である井伊直満が謀殺されてしまうことで、亀之丞の命も危ぶまれることになる。そこで井伊家と龍潭寺の住職である南渓和尚が協力し合い、亀之丞を密かに匿うことになった。

亀之丞を何から匿うかというと、それは今川家だ。この頃の井伊家は今川家に属していた。井伊直満(亀之丞の父)は、今川贔屓の井伊家家老・小野政直の讒言によって謀反の疑いをかけられ、今川義元の命により謀殺されてしまった。つまり井伊家は娘婿として井伊家の跡取りとなった亀之丞を、小野政直の魔の手から守ろうとしたというわけだ。その詳細に関してはこちらの記事に少し詳しく書いているため、ぜひ参考にしてもらいたい。

だいたいこの辺りまでが『おんな城主直虎』第一回目のあらすじとなる。史実通りのこととフィクションが上手く織り交ぜられた内容であり、二回目以降が楽しみになるストーリー展開がされている。ちなみに脚本を書かれているのは『世界の中心で、愛を叫ぶ』『仁-JIN-』『天皇の料理番』『白夜行』などの脚本を手掛けられた森下佳子さんだ。

森下佳子さんは涙を誘う台詞回しがとても上手な方なので、きっと今後『おんな城主直虎』でも涙を誘うシーンがたくさん出てくるのだろう。役者さんたちの好演、森下さんの脚本などなど、今後とても楽しみに感じられる大河ドラマであり、決して2016年の『真田丸』に引けを取らない素晴らしい作品になっていくのだと思う。