武田信玄は「風林火山」の旗印でも有名な戦国大名であるわけだが、この風林火山とは『孫子』という兵法書に書かれている一節だ。疾きこと風の如し、静かなること林の如し、侵略すること火の如し、動かざること山の如し、という意味となる。戦国時代に『孫子』を愛読した武将は多い。例えば戦わずして勝つことにこだわった竹中半兵衛も『孫子』を学んだひとりだ。
孫子とは簡単に訳すと孫先生という意味になる。つまり『孫子』とは孫先生が書いた兵法書ということだ。だが近年の史家の研究によると、どうやら『孫子』は孫先生、つまり孫武がひとりで書いたものではないらしいのだ。もちろん多くは孫武自身が書いたものとされているが、しかし部分的に文の表現が違うということがわかってきたようなのだ。
となると『孫子』とは、ある意味ではキリスト教の福音書のような存在とも言えるのかもしれない。つまり孫武の弟子たちが孫武から学んだことを、後世になって少しずつ『孫子』に書き加え、長い年月をかけて完成したものが現代に伝わる『孫子』だという可能性があるらしい。確固たる証拠が見つかっているわけではなく、あくまでも史家の文体などの研究結果によるものだが、信憑性は確かに感じられる。
話は少し変わり、ビジネススクールなどで取得できるMBA(Master of Business Administration)という資格がある。日本語で言うと経営学の修士号ということになり、つまりは経営の専門家として認定してもらえる資格となる。現代名の通っている世界的な経営者の多くがこの修士号を取得している。まさにビジネス界の最先端に立つために必要な資格だ。
このMBAを取得するための必須科目に、実は『孫子』が含まれているのだ。『孫子』をビジネスに活かすための書籍やコミックが書店にはたくさん並んでいるわけだが、その理由がここにあるのだ。経営学の専門家になるためには『孫子』を学ぶことが義務付けられている。
『孫子』は紀元前4〜5世紀に書かれたものだとされている。つまり『孫子』とは書かれてから2500年経った今も色褪せていないということになり、その歴史はキリスト教よりも長い。
武田信玄は戦略家として優れた才気を持っていたわけだが、それを身につけるために学んだ教科書が『孫子』だった。現代で言えばソフトバンクを率いる世界的な経営者、孫正義氏もまた、『孫子』を学んだひとりだ。
戦国時代では武田信玄をはじめとし竹中半兵衛、黒田官兵衛、真田幸村などなど、長年かけて『孫子』を学んだとされる武将は多い。武田信玄は最強騎馬軍団を編成し、竹中半兵衛と黒田官兵衛は豊臣秀吉を天下人にした。そして真田幸村は幾度となく徳川家康を苦しめた。
筆者自身『孫子』は長年愛読しており、恐らく過去20冊以上の『孫子』に関する本を読んできたと思う。最後に筆者オススメの読みやすい『孫子』を一冊紹介しておくので、もし興味がある方はお手に取ってみてください。文章も読みやすく、内容もわかりやすく、『孫子』初心者でも楽しめる一冊だと思います。
筆者オススメの『孫子』