惟任退治記,本能寺の変


惟任退治記(5)本能寺の変

分類 惟任退治記 / 本能寺の変
この巻の主な内容

  • 本能寺の変直前に連歌会を催した明智光秀
  • 順風満帆な壮年期に満足する織田信長
  • 夜明けに攻め入られた警護手薄の本能寺
  • すぐに駆け出し応戦する森蘭丸ら小姓たち
  • 寵愛した美女たちを殺してから切腹した信長


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惟任光秀(明智光秀)は信長から秀吉救援の命令を受け二万以上の軍勢を揃えたものの、備中には行かず、密かに謀反を企んでいた。この謀反は決してその場の思い付きなどではなく、長年積もりに積もった信長への恨みにより、この時が好機であると決断したものだった。そして五月二十八日(本能寺の変は六月二日)、光秀は愛宕山で連歌会を催した。その時光秀が読んだ発句(会全体の最初の句)がこれだった。

時は今 雨が下しる 五月哉
(ときはいま あめがしたしる さつきかな)

今になって思うと、この句こそが謀反の兆しだった。しかしこの時誰がそんな光秀の企みに気付いただろうか。

天正十年六月一日、夜半から先の二万の軍勢を率いて居城である丹波亀山城を出立し、京都四条西洞院(きょうとしじょうにしのとういん)にある信長の宿所、本能寺に押し寄せた。信長は光秀が謀反を起こすなど夢にも思っておらず、その日も夜がまだ深まる前、信忠(信長の嫡男)といつものように仲良く語り合っていた。

ここ何年かを振り返ってみると、思い残すことがないほど満ち足りた四十代だったことを喜び、これからも末永くその栄光が続くようにと、村井貞勝をはじめ近習(主君のそばに仕えるもの)・小姓(主君のそばで雑用をする少年)に至るまで優しい言葉をかけてくださった。そうしているうちに夜も更けていったため、信忠は暇を乞い自らの宿所である妙覚寺へと帰っていった。

信長も寝所へと入っていくと、美女たちを集めてそばに侍(はべ)らせた。だが現実はそのような夢のようにはいかない。信長がそうしている間にも光秀は、明智秀満、明智勝兵衛(三沢秀次)、明智光忠、明智孫十郎、斎藤利三を大将とした軍勢を四方に分けて本能寺を取り囲んでいた。

夜明け間近、光秀の軍勢は壁を壊し、門や木戸を破り、一気に本能寺へと乱入していった。信長の命運ももはや尽きていたのだろう。近頃は戦もめっきり減っていたため、信長はほとんど護衛をつけてはいなかった。有力武将たちは毛利攻めのために西国に遠征していたり、北条などを警戒するために東国に置かれているのみで、京付近の護衛は手薄になっていた。

信長の三男である織田信孝も四国の長曾我部討伐の遠征で渡海するため、丹羽長秀、蜂谷頼隆を従え泉堺の津に留まっていた。その他の武将たちも毛利攻めの準備をするためそれぞれの国に戻っていたために、信長は手薄な警護のみで在京していたのだった。

たまたま京付近に滞在していた家臣もいたにはいたのだが、思い思いに都を楽しみ、信長の救援に駆け付けられる状態ではなかった。つまり信長の警護に当たっていたのは小姓百人程度でしかなかった。

信長は夜討ちの報せを受けて森蘭丸に問うと、彼は光秀が謀反を起こしたと告げた。恩を仇で返すということに前例がないわけではない。生きている者はいつかは死にゆく。これは道理であって今さら驚くようなことでもない。

信長は急いで弓を取ると縁側に出て向かってくる敵兵五、六人を射抜き、十文字の槍を手に何人かをなぎ倒し、門外まで追い、追い払った時にはいくつかの傷を負い、寺内へと引き返していった。

森蘭丸(森成利、本来は蘭丸ではなく乱丸。信長が男色だったと捏造するため、秀吉が男色を匂わせる「蘭」という漢字を使わせた)、森坊丸、森力丸の兄弟をはじめ、高橋虎松、大塚又一郎、菅屋角蔵(十四歳)、薄田金五郎(すすきだきんごろう)、落合小八郎らの小姓たちは、最期まで信長のそばを離れず付き従った。彼らは真っ先に駆け出し、名乗るや否や一歩も引かずに戦い続けたが、最後は全員が枕を並べて討ち死にをしていった。

彼らに続いたのは中尾源太郎、狩野又九郎、湯浅甚助(桶狭間の戦い活躍)、馬乗勝介(うまのりしょうすけ、厩から飛び出してきて戦ったらしい)、一雲斎針阿弥(いちうんさいしんあみ、奉行的立場の側近)ら七十から八十人だった。彼らも思い思いに戦いしばらくは防戦に努めたものの、二万の軍勢に攻められことごとく討たれていった。

信長は日ごろ寵愛していた美女たちを刺し殺し御殿に火をかけると、切腹をし果てていった。



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